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大阪地方裁判所 昭和53年(わ)2739号 判決

裁判所書記官

内海順三

本店所在地

大阪府茨木市永代町六番五号

三和住宅株式会社

右代表者代表取締役

前田守信

本籍

大阪府茨木市大池一丁目七三番地

住居

大阪府茨木市星見町一二番一二号

会社役員

前田守信

昭和四年五月五日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官鞍元健伸出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一  被告三和住宅株式会社を罰金六〇〇〇万円に、被告人前田守信を懲役一年六月にそれぞれ処する。

二  被告人前田守信に対し、この裁判確定の日から五年間右懲役刑の執行を猶予する。

三  訴訟費用は、被告三和住宅株式会社と被告人前田守信との連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告三和住宅株式会社(以下「被告会社」という。)は、茨木市永代町六番五号に本店を置き、土木建築請負等の業務を営むもの、被告人前田守信(以下「被告人」という。)は被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人は被告会社の経理責任者大石葉子と共謀のうえ、被告会社の業務に関しその法人税を免れようと企て、

第一  被告会社の昭和四九年五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの事業年度において、その実際の所得金額が二億八七二四万六六七三円(別紙(一)修正損益計算書参照。)で、これに対する法人税額が一億二〇七八万〇六〇〇円(別紙(三)税額計算書参照。なお課税土地譲渡利益金額が四七三〇万六五〇五円でこれに対する土地譲渡税額九四六万一二〇〇円を含む。別紙(五)土地譲渡税額計算書参照。)であったにもかかわらず、右事業年度の売上及びたな卸の一部を除外し固定資産振替高を過少にする等により収益を過少に計上するとともに、未成工事支出金の不計上や工事未払金の架空計上等により売上原価を過大に計上して右所得の一部を秘匿したうえ、昭和五〇年六月三〇日大阪府茨木市上中条一丁目九番二一号所在の所轄茨木税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一億二四三〇万四八三五円でこれに対する法人税額が五一六二万三九〇〇円である旨過少に記載した法人税確定申告書を提出して虚偽の申告をしそのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により右事業年度の法人税六九一五万六七〇〇円を免れ、

第二  被告会社の昭和五〇年五月一日から昭和五一年四月三〇日までの事業年度において、その実際の所得金額が三億九四四一万五八〇三円(別紙(二)修正損益計算書参照。)で、これに対する法人税額が一億五九五二万八七〇〇円(別紙(四)税額計算書参照。なお課税土地譲渡利益金額が四四七五万一九九四円でこれに対する土地譲渡税額八九五万〇二〇〇円を含む。別紙(六)土地譲渡税額計算書参照。)であったにもかかわらず、前同様の行為により右事業年度の所得の一部を秘匿したうえ、昭和五一年六月三〇日前記所轄茨木税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が六七九一万六一七八円でこれに対する法人税額が二〇六四万二四〇〇円である旨過少に記載した法人税確定申告書を提出して虚偽の申告をしそのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により右事業年度の法人税一億三八八八万六三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

以下証拠書類には検察官請求の証拠等関係カード(書)に記載の番号を、押収してある証拠物には当裁判所の押収番号(昭和五四年押第二二号)の符号を付記特定する。

判示冒頭の事実につき

一  被告人の検査官に対する昭和五三年六月九日付供述調書(98)

一  大石葉子の検察官に対する昭和五三年六月七日付((一))、同月二五日付各供述調書(47・57)

一  商業登記簿謄本(5)

一  被告会社の定数の謄本(6)

判示第一及び第二の事実につき

一  第二七ないし第二九回公判調書中の証人小山和男の各供述部分

一  第三〇、第三一回公判調書中の証人金澤徳昭の各供述部分

一  第三八回公判調書中の証人安藤重信の供述部分

一  林善則の検察官に対する昭和五三年六月三日付、同月一三日付、同月二三日付各供述調書(43・44・45)

一  大石葉子の検察官に対する昭和五三年六月一七日付、同月二四日付((二))、同月二六日付((一))各供述調書(52・56・58)

一  安井清の検察官に対する供述調書二通(60<但し、二項の『仮説水道を使って』以下同項末尾までを除く。>61)

一  大蔵事務官作成の調査書(15、二丁、三丁、三九丁、三〇丁、一五七丁、二六九ないし二七七丁、三三四丁)

一  大蔵事務官作成の調査書(16、二ないし八丁、一〇ないし一六丁、一八ないし二五丁)

一  大蔵事務官作成の調査書(17、八ないし三四丁、五六ないし六二丁、九六ないし一〇四丁)

一  押収してある不動産売買契約書六綴(符三)、買掛金支払明細表一綴(符四)、試算表一綴(符五)、昭和五〇年度給与台帳二綴(符一〇、四九)、昭和五一年度給与台帳一綴(符九)、昭和四九年分源泉徴収簿給与支払明細表一綴(符一一)、昭和四八年四月期、昭和四九年四月期確定申告書控等一綴(符一二)、発注書台帳三册(符一三)、発注書綴(昭和四八年度ないし昭和五一年度のもの各一綴、符二四ないし一七)、昭和四九年一月ないし一二月請求書領収書綴一二綴(符一八〇の一ないし一二)、昭和四八年度専属下請関係請求書領収書一綴(符一九)、昭和五九年下請工賃関係請求書領収一綴(符二〇)、昭和五〇年下請関係請求書領収書一綴(符二一)、昭和五一年度下請工賃関係請求書領収書一綴(符二二)、請求書領収書綴(昭和四八年分、昭和五〇年分、昭和五一年一ないし六月分のもの合計三〇綴符二三の一ないし一〇、二四の一ないし六、二五の一、二、二八九の一ないし一〇、三〇、三一)、銀行勘定帳七册(符二六、二七、二八、五八、六一、六二、六三)注文請書一綴(符三二)、受注工事関係書類一綴(符三三)昭和四九年四月ないし昭和五一年四月分伝票綴三四綴(符三四の一ないし三四)、昭和五一年四月期主要科目明細帳一二(符三五の一ないし一二)、支払手形記入帳一綴(符三六)、見積書仕切書一綴(符三七)、工事日報作業日報一綴(符三八)、工事日報一綴(符三九)、昭和五一年一月業務日報(行動日報)一綴(符四〇)、家賃明細表三綴(符四一の一ないし三)、昭和五一年四月期決算関係書類一綴(符四二)、発注書一綴(符四三)、工事請負契約書等二綴(符四四の一、二)、工事日報、作業日報、営業日報二綴(符四五の一、二)、工事報告書一綴(符四六)、工事日報一綴(符四七)、領収書一枚(符四八)、金銭出納帳二册(符五九年・六〇)、昭和五〇年四月期主要科目明細帳一二綴(符六四の一ないし一二)、昭和四九年四月三日期諸勘定科目明細帳一二綴(符六五の一ないし一二)昭和四八年四月期諸勘定明細帳一一綴(符六六の一ないし一二)、昭和四八年四月期諸勘定明細帳一一綴(符六六の昭ないし一二)特別土地保有税関係書類一綴(符七七)、家賃明細表七綴(符七八の一ないし七)、昭和四八年度固定資産税課税台帳一綴(符六九)、固定資産税対象物件二綴(符七〇の一、二)、昭和五〇年五月ないし一〇月分諸勘定明細帳六綴(符七一の二ないし六)、不動産売買契約書綴八綴(符七二の一ないし八)、住宅賃貸借契約書等一八綴(符七三の一ないし八、七四の一ないし一〇)、昭和四八年五月ないし昭和四九年四月分伝票綴二六綴(符七五の一ないし二六)、昭和四八年四月期年度不詳伝票綴二九綴(符七六の一ないし二九)、建築確認書受領一覧表一册(符七七)、確認通知書二綴(符七八の一、二)、道路工事施行許可書一綴(符七九)、勘定科目明細一綴(符八〇)、昭和五一年度固定資産税課税台帳一綴(符八一)、固定資産税台帳縦覧用メモ(昭和四九年度、五〇年度各一綴、符八二、九〇)、不動産権利証綴一綴(符八三)、登記済証綴一綴(符八四)、仕訳票簿三六綴(符八五の一ないし一二、八六の昭ないし一二、八七の一ないし一三)、使用済銀行通帳二五綴(符八八の一ないし二五)、はがき複写簿一綴(符八九)、昭和五〇年五月ないし昭和五一年四月分会計伝票一二綴(符九一の一ないし一二)、昭和五二年固定資産税台帳綴一綴(符九三)、家賃計算書類三綴(符九四の一ないし四)、決算関係書類三綴(符九五、九六、九七)、更正通知書写等一綴(符九八)、請求書納品書三册(符九九の一ないし三)、領収書半片二册(符一〇〇の一、二)、建築物定期調査報告書三綴(一〇一の一ないし三)、工事決定報告書一綴(符一〇二)、請求書六册(符一〇三の昭ないし六)、請求書控四册(符一〇四の一ないし四)

判示第一及び第二の完成工事高につき

一  第三五回公判調書中の証人澤井平昭の供述部分

一  茨木市長作成の回答書(9)

一  大蔵務官作成の調査報告書(10)

判示第一及び第二の家賃収入、受取利息、諸税公課につき

一  大蔵事務官作成の調査書(11)

判示第一及び第二の工事原価につき

一  第三一回公判調書中の証人乾勇の供述部分

一  第三二回公判調書中の証人青山朗、同山本富治、同木本和男の各供述部分

一  第三三回公判調書中の証人巖春雄、同清家義政、同鈴木栄太郎の各供述部分

一  第三四回公判調書中の証人裵泰奉の供述部分

一  証人長野隆に対する当裁判所の尋問調書

一  青山正弘(64)、橋長和男(68)、奥村光生(69)、乾勇(111)、田中和子(112、113)の検察事務官に対する各供述調書

一  青山朗(67)、長野隆(70)、山本富治(71)、清家義政(74)、鈴木栄太郎(75)、裵泰奉(76)の検察事務官に対する各供述調書の末尾添付書類(但し、70については売掛明細表を、74については工事日報表を除く)

一  大蔵事務官作成の調査報告書三通(21、22、252)

判示第一及び第二の期首期末土地建物たな卸高、固定資産振替高につき

一  大蔵事務官作成の調査書三通(165<但し、一一ないし三四丁を除く>166・167)

一  大蔵事務官作成の調査報告書五通(246・247・249・250・251)

一  辻田和三郎作成の捜査関係事項照会回答書(242)の末尾添付書類

一  阪井伊一郎(243)、佐野雅明(244)、寺川昌子(245)作成の各確認書の末尾添付書類

一  被告会社の法人税中間申告書謄本二通(232・234)、法人税確定申告書謄本五通(233、235、236、237、239)、法人税修正申告書謄本二通(238・240)

一  土地建物登記簿謄本六二通(170ないし231)

判示第一の事実につき

一  大石葉子の検察官に対する昭和五三年六月一四日付、同月一六日付、同月二二日付各供述調書(50・51・53)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(1)

一  被告会社の昭和五〇年四月期確定申告謄本(3)一

一  押収してある昭和五〇年四月期確定申告書控等綴一綴(符七)

判示第一の完成工事高につき

一  第三一回公判調書中の証人中島茂の供述部分

一  中島茂の検察官に対する供述調書末尾添付書類(168)

判示第一の仕入土地建物につき

一  本田忠作成の確認書(14)

判示第一の工事原価につき

一  西崎昌行作成の確認書(20)

一  乾勇作成の確認書末尾添付の売上帳、丸誠木材(株)作成の請求書5枚、丸和産業(株)作成の請求書二枚、今川製材所作成の領収証、請求書、請求明細書各一枚、和光重機(株)作成の請求書一枚(169)

判示第二の事実につき

一  大石葉子の検察官に対する昭和五三年六月二三日付、同月二四日付各供述調書(54・55)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(2)

一  被告会社の昭和五一年四月期確定申告書謄本(4)

一  押収してある昭和五一年度四月期確定申告書控等綴一綴(符六)

判示第二の土地建物売上高につき

一  第三一回公判調書中の証人佐藤裕子の供述部分

一  第三五回公判調書中の証人美馬敏の供述部分

一  大平保雄(84)、橋本美智子(85)の検察事務官に対する各供述調書

一  服部勝弘の大蔵事務官に対する質問てん末書(27)

一  安原宏(29、30)、大平保雄(31)、橋本堅志(32)作成の確認書

判示第二の土地建物売上高及び仕入土地建物につき

一  物部成三郎の大蔵事務官に対する質てん末書(28)

判示第二の家賃収入につき

一  大蔵事務官作成の調査書八通(33ないし40)

判示第二の工事原価につき

一  証人日高丈雄の当公判廷における供述

一  第三一回公判調書中の証人濱崎績の供述部分

一  第三四回公判調書中の証人吉村一美の供述部分

一  第三五回公別調書中の証人渡辺義人の供述部分

一  西山昭夫の検察事務官に対する供述調書(114)

一  日高丈雄(77)、吉村一美(78)、濱崎績(79)、渡辺義人(80)の検察事務官に対する各供述調書の末尾添付書類

(弁護人の主張に対する判断)

第一各勘定科目について

別紙修正損益計算書記載の逋脱に係る各勘定科目のうち、弁護人の主張に鑑み、主要な争点となった部分につき、順次簡単に当裁判所の判断を示す。

一  昭和五〇年四月期完成工事高

1 弁護人は、中島邸新築請負工事につき、昭和五〇年四月期末において外廻り工事等が一部未了の状態であったうえ右請負工事代金は被告会社が注文主中島茂から購入した土地代金と相殺決済する約定であったところ、右土地代金支払の完了したのが昭和五一年一二月二〇日であったためこれを右請負工事に関する決済時期と認識し昭和五二年四月期の完成工事高として計上したものである旨主張する。

ところで目的物の引渡を要する請負契約による収益の計上時期については、その目的物の全部を完成して引渡した日の属する事業年度においてその収入を益金に計上すべきものと解すべきところ、関係各証拠によれば、右工事は、昭和四八年一二月一〇日付で被告会社と中島茂との間で締結された請負契約(代金二一九〇万円)及びその後同人から追加発注された工事の契約(代金一〇万円)に基づいて施工されたもので、中島が建物に入居した昭和四九年一二月一日の時点では畳が一部入っていない等右契約に基づく工事が一部未了であったものの、同月末までには建物本体及び外廻りのいずれについても追加工事分も含めすべて完成していたことが認められるから、右請負による収入は新築建物の完成引渡を完了した日の属する昭和五〇年四月期の収益として計上すべきものである。

なお弁護人が主廻する請負工事代金と前記土地代金との相殺の約定が存在することを考慮したとしても右収益計上の時期に影響を与えるものではない。

2 弁護人は、茨木市立北幼稚園増築工事に関し、同市が発注する建築等請負工事は、検査引渡終了後であっても請負代金完済まではしばしば修補手直しを命じられることがあり、この修補手直し工事を完了しない限り請負契約上の目的物完成引渡義務を履行したことにならないから、右のような修補手直しを命じられることのあるべき期間を経過して請負代金を受領した時点で完成工事高として計上すべく、しかして本件で代金が支払われたのは昭和五〇年五月三〇日であるから、昭和五〇年四月期に収益として計上すべきではないものであると主張する。

前掲関係各証拠によれば、茨木市においては、受注業者の行う工事作業が結了した場合には市の担当職員による竢工検査を行い、右検査に合格した後市に引渡がなされること、工事が不完全であったり設計どおりに為されていなかったような場合には手直し工事を命じ、しかる後に再検査を行なうこと、まれには手直し工事を指示したうえ引渡を受けることがあること、しかしながら本件増築工事については昭和五〇年三月二六日何らの手直し等の指示もなく検査引渡を完了していることをそれぞれ認めることができる。しかして、右検査に合格して目的物の引渡がなされた場合には、その時に市による検収を完了したものとしてその時の属する事業年度の収益として計上すべきものである。

二  昭和五〇年四月期仕入土地建物

弁護人は、吹田市南町一六三番地所在の津田富次所有の土地建物を同期仕入土地建物としたのは、同人に売却した新築建物を昭和四九年一〇月二一日引渡したが、その際の下取物件として右不動産を取得したといういきさつがあったため、その取得が右新築建物の売買契約と不可分の関係にあるものとして昭和四九年一〇月二一日付で仕訳したことによるものである旨主張する。

そこで検討するに、関係各証拠によると以下の事実を認めることができる。

(一) 昭和四八年一〇月三一日被告会社と津田富次との間で、被告会社が新築所有する星見町所在の建売住宅の売買契約が締結され、その際吹田市南町一六三番地所在の津田所有に係る土地建物を被告会社において七五〇万円で下取りし、これを前記建売住宅売買代金の一部として充当する旨の特約がなされた。

(二) その後、被告会社は下取りした旧津田宅の引渡を受けたうえ昭和四九年三月二九日付で本田忠に転売し、その旨昭和四九年四月の被告会社の公表に計上したが、下取りについてはこれに対応する仕入土地建物として同期公表に計上しなかった。

(三) そして前記津田に対する星見町所在の建売住宅売却については昭和四九年一〇月二二日代金支払いと同時に移転登記をする旨の約定に従って同日付で売上に計上するとともにこの時点で下取りした旧津田宅を仕入土地建物として仕訳し、昭和五〇年四月期公表に計上した。

ところで、期間損益計上において正確な損益を算定するためには費用収益対応の原則に則った会計処理を為すべきものとされている(法人税法二二条参照。)。しかして前認定の如く下取りして引渡まで受けていた旧津田宅が昭和四九年四月期中に転売され売上として実現している以上、これに対応する仕入は同期において計上されなければならないのは右会計処理原則上当然であり、弁護人主張の如き事情をもって同原則に背馳する会計処理を是認する理由とは到底なし得ないから弁護人の主張は採用できない。

三  昭和五〇年四月期工事原価(工事原価計算書中の科目について)

1 材料費

(一) 弁護人は、検察官が架空であると主張する材料仕入高当期否認分のうち三協機材、近畿工業、丸誠木材の分については、いずれも昭和五〇年四月期中に既に口頭により発注・買付済みであって債務として確定しておるから。当期の費用として計上した被告会社の処理は正しい旨主張する。

ところで、法人税法上、原則として当該事業年度の収益に対応する原価については損益の額に算入することを認められているが、外部取引に係る原価については期末までにその債務が確定していることを要請されているところ(法人税法二二条三項)、債務が確定したと言いうるためには単に債務が発注等により成立しているというだけでは足りず、その債務に基づいて具体的な給付をなすべき原因となる事実が発生している(給付原因事実の発生)こと、その金額を合理的に算定し得る(金額の明確性)ことが必要であると解すべきである(なお法人税基本通達二-二-一二参照。)。関係各証拠によれば、被告会社においては建築材料を口頭で発注することがよくあったが、その場合材料が現場に納品され納入業者の定めた〆切日までに納入した分についての請求書を受け取った時点で確定債務として取り扱っていたものと認められ、少くとも材料が納品され検収を終了しない限り右債務確定の要件を欠くと解されるところ右三件については、弁護人主張の各契約に基づき具体的な目的物が被告会社へ納品されたのはいずれも昭和五〇年五月以降であり、同年四月末までに検収を終えた未払債務は三協機材に対し一二〇万三四四〇円、近畿工業に対し一八万円、丸誠木材に対しては零であったと認められるから、右金額を超える未払債務はいずれも昭和五〇年四月期末において末だ確定していなかったものであり、従って、これらの債務を昭和五〇年四月期の工事未払金(未払費用)として計上していた被告会社の公表経理を架空として否認した検察官の主張は正当であり、弁護人の主張は採用できない。

(二) 弁護人は、検察官が架空であると主張する材料仕入高当期否認分のうち巖建材の分(六一二万一〇五〇円)について、そのうち五〇〇万円は、被告会社のダンプカーが国鉄関西線で起こした事故の処理を巖建材の巖春雄に委任した際に、同人が事故処理のために立替支出した費用及びそれに対する報酬として支払ったもので架空の費用ではなく、その余の一一二万一〇五〇円は昭和五〇年四月期間中に口頭で発注済みの契約に係るものであり債務として確定していた旨主張している。

そこでまず右五〇〇万円につき検討するに、関係各証拠によれば、昭和四八年一二月に被告会社の車両が国鉄関西線で事故を起こしたためこれによる被告会社の蒙る信用失墜や社会的影響を憂慮した被告人が、右事故の事後処理を取引先の巖春雄に依頼し、同人は右事故を起こしたのが巖建材の社員であるとして、鉄道管理局との交渉を行い、破損したガードレール等の修復工事を行ってその費用を立替払いしたほか、右事故にかかる行政罰も代わって受ける等その処理に尽力し、その後これに対し被告人から右立替費用分及び謝礼の趣旨も含めて五〇〇万円の金員を受領したが、これについては以後被告人から返済を求められたこともなくそのまま現在に至っていることが認められる。

右事実によると、被告会社が昭和五〇年四月期の工事未払金(材料仕入高)として右五〇〇万円を公表計上したことは、架空の材料費を計上したものとして不当な会計処理と断ぜざるを得ないが右金額自体は前記の経緯で現実に支出が為されているものと認められるから、これについては支出金の性質・使途に鑑み、被告会社の公表における営業外損益のうち雑損失の項目に計上することとした。

なお、その余の分については、単に発注しただけで納品がなされていない以上債務として確定したものとは言えないから、弁護人の主張は採用しない。

(三) なお、検察官主張の三伸興業にかかる分については、昭和四九年四月における同社からの材料仕入金額のうち一部(四五万二〇〇〇円)を大石が誤って一桁小さく計上したことに対する訂正処理であり、従って右が昭和五〇年四月期の法人税申告の際における「偽りその他不正の行為」による結果であるとは認められなうので、これについては犯則金額から除外することとした。

2 外注費

弁護人は、検察官が架空であると主張する外注費当期否認分(丁ケ坂商会ほか八件に対するもの)について、いずれも昭和五〇年四月期末までに口頭又は書面により発注済みで債務として確定したものであり、またそのうちの一部業者は既に工事に着手していたのであるから少なくとも同期末までに工事が行われてきた分については債務として確定していたはずである旨主張する。

ところで債務が確定したと言い得るためには前記三の1の(一)の要件をすべて充たすことが必要であると解されるところ、下請業者に対する外注費についてみると請負契約における報酬支払義務が仕事の完成を俟って生じることに照らせば、少なくとも当該事業年度終了の日までに相手方が下請契約に基づく工事を完成しあるいは役務の提供を完了していなければならず、また、下請業者に対する報酬を各月の出来高に応じて部分払をする旨の特約がある場合においては、その工事進捗部分に対応する報酬支払債務は、右工事進捗割合や工事の出来具合等について被告会社が検収を完了した時点で債務として確定すると解するのが相当である。

従って、昭和五〇年四月期末までに単に発注済みであったというだけでは債務として確定していたとは言えず、また一部工事着手が為されていたとしても同期末までに工事を完成しあるいは工事進捗部分の検収を完了していない以上、これを確定した債務として同期の費用に計上することは許されないところである。

しかして、関係各証拠によれば、右の外注費はいずれも昭和五〇年四月期の法人税確定申告に際し同年六月二〇日ころ、被告人が脱税工作の一環として、発注しかなしていない分あるいは発注すらなしていない分も含めて、前記材料費中の当期否認分とともに工事末払金として追加計上させたものであることが認められるのであるから弁護人の主張は採用できない。

3 期首材料たな卸高、期首及び期末末成工事支出金の項目については、後記第三参照。

四  昭和五〇年四月期固定資産振替高

1 弁護人は、検察官において被告会社が簿外としていたとする茨木市太田三丁目一八四-八所在の土地について、右は賃貸用の第一〇マンションの敷地部分であって、固定資産への振替はその建物完成時期にあわせ昭和四九年四月期とすべきである旨主張する。

関係証拠によれば、第一〇マンションは当初分譲用のマンションとして建設され昭和四八年一〇月に完成したものであるところ、その後の右マンションの販売が不振であったことから昭和四九年六月一八日までに売れ残った分を賃貸用に切り替えたもので、昭和五〇年四月期末においては全三五戸中一〇戸が賃貸されており、右土地は第一〇マンションの賃貸用部分に対応する敷地部分であると認められる。

してみると第一〇マンションはあくまでも販売目的をもって建設されたものでありその後その一部について事情が変更したため賃貸されるに至ったとしても、これに対応する敷地部分について建物完成時に遡って固定資産として振替えることは、実情にそぐわないと言うべきであるから、弁護人の主張は採用しない。

2 弁護人は、検察官において被告会社が簿外としていたと主張する茨木市橋の内一丁目三六五-一、三の土地について、右は被告会社が所有する賃貸用第一一ないし第一五マンションの敷地のうち、各マンション間の縁地部分に該るもので、実質的には公共の用地と同視し得べく被告会社の所有する固定資産として計上すべき実体がない旨主張する。

しかし、各マンション間の縁地部分等も建物直下の敷地部分と一体となって全体の敷地としての効用を有している以上、右縁地部分も被告会社の所有しかつ事業の用に供されている固定資産と認められるから、これを固定資産に計上せず簿外とすることは許されない。

3 なお弁護人は、完成建物とされた第一〇ないし第一五マンションにつきその金額(工事原価)が過大である旨主張するがこの点については、その余の建物・機械装置・建設仮勘定分も含め、後記第三を参照。

五  各期における期首・期未たな卸土地建物

弁護人は、検察官において被告会社が簿外としていたと主張するたな卸土地について、それらの土地は、分譲用マンション、建売住宅の道路敷部や縁地部分として公共の用に供されていてたな卸資産としての実体がないとか、建物建築が不能あるいは困難であってたな卸資産として利用価値が乏しいとか、所有権の帰属につき係争中であったとか種々の理由をあげて、各土地の具体的な利用価値ないし経済的価値に応じ評価を減額する処理を行ったものである旨主張している。

ところで、法人税法上資産の評価損を損金として計上できるのは、資産につき災害による著しい損傷があるなど特に定められた場合に当該資産の評価換えをして損金経理を行ったときであり(法人税法三三条二項)、しかもたな卸資産につき評価損を計上できる場合は同法施行令六八条一号に限定されているのであるから、所定の経理を経て確定決算に計上することもなく、ただ簿外としていた被告会社の経理は到底容認できるものはなく、弁護人の主張は採用できない。

六  各期の給料及び支払利息のうち菊水荘管理人の給料に関連する分について

弁護人は、菊水荘の管理人は被告会社の正社員であり、その勤務場所を被告会社の管理物件である菊水荘としてその管理に従事させていたものであるから、菊水荘が被告人所有物件であっても右の者に対する給料は被告会社において支払うべきである旨主張し、証人大石葉子、被告人の各供述記載中にも右主張に符合する部分が存在する。

しかし、右菊水荘管理人と被告会社との間に正式雇傭関係が成立したことを証するに足る契約書等の客観的資料は存しないところ、関係各証拠によれば菊水荘は被告人個人の所有物件であること、その管理を被告会社に委託した場合には当然支払うべきこととなる管理料はこれまで一切支払われていなかったことを認めることができ、従って右菊水荘管理人に対する給料は本来被告人において負担すべき筋合のものと言うべきであるから、被告会社の公表経理中右給料支払分を否認し被告人に対する役員貸付金とした検察官の処理は正当と認められ、弁護人の主張は採用できない。

七  昭和五一年四月期土地建物売上高

弁護人は、検察官が昭和五一年四月期末において既に売却済みであったと主張する第一八マンション五戸分及び星見町建売住宅二戸分について、これらはいずれも昭和五一年四月期末において水道本管切替工事や外廻り工事等の各種付帯工事が未了の状態であったから、これらを完工した後でない限り、単に入居者が引越を済ませたとか代金完済や移転登記がなされたとかに係わらず完全な引渡が終ったとは言えず、当期の売上としては未実現である旨主張する。

しかし、たな卸資産の販売による収益については、その引渡があった日の属する事業年度の収入として計上すべきであり、土地建物等の不動産の販売の場合における引渡の日は特段の事情がない限り相手方においてこれを使用収益できることとなった日であると解するのが相当と認められるところ、関係各証拠によれば、右七戸の居室ないし居宅はいずれも昭和五一年四月期末までに入居あるいは鍵の引渡を終えて現実に使用収益をし或いはこれを為し得る状態にあったのみならず売却代金についても、同期末の時点で、第一八マンション五〇一号室を購入した佐藤健太郎から代金総額八八〇万円のうちの二〇万円が支払未了であったのを除き、すべて支払われていたこと、従って大石は右七戸分を含めた土地建物売上高明細書を作成したが、確定申告に際し被告人が大石に対し、同期末近くに代金完済となった分を売上から除外し受領した代金は未成工事受入金として処理するよう指示したため結局被告会社の公表上は土地建物売上高から除外されるに至ったことがそれぞれ認められるから、前記収益計上基準日には引渡をすべて完了していたものであり、昭和五一年四月期に収益として計上すべきものである。弁護人の主張は採用しない。

八  昭和五一年四月期完成工事高

弁護人は、検察官において、被告会社が昭和五一年四月期において完成工事高から除外していたと主張する茨木市立第一六保育所新築建築主体工事ほか三件の茨木市発注に係る工事について、前記一の2(昭和五〇年四月期完成工事高中茨木市立北幼稚園増築工事)におけるのと同様の主張をしているけれども、前記認定が事実のほか関係各証拠によれば、右四件の工事についてはいずれも昭和五一年三月末から翌四月上旬にかけて検査引渡を完了していることが認められるから、右四件の請負による収入は、検察官主張のとおり昭和五一年四月期において実現した収益として計上すべきである。

九  昭和五一年四月期工事原価(工事原価計算書中の科目について)

1 材料費

(一) 弁護人は、検察官が仕入繰上計上分として否認する材料仕入高のうち、竹村電機からの仕入分は昭和五二年四月期中に口頭で発注済みであり、丸誠木材の分についても四月一〇日に既に買付済みであって、いずれも債務として確定しており納品が遅れたにすぎない旨主張する。

しかし、関係各証拠によれば、各契約に基づいて、相手方から被告会社へ目的物が納品されたのはいずれも昭和五一年五月であると認められるから、前記三の1の(一)の基準に照らし昭和五一年四月期末においては未だ債務として確定していたとは言えず、これを当期の費用として計上することは許されない。

(二) なお検察官が昭和五一年四月二一日から三〇日までの材料費を集計する際に既に外注費に含めた分を重複集計したり、集計金額を伝票に過大に起票したものである旨主張し、集計誤りとして否認する分については、右検察官の主張自体からもこれが何らかの過誤によるものと窺われ、「偽りその他不正の行為」による結果であることを肯定できないので、犯則金額から除外することとした。

2 外注費

(一) 弁護人は、検察官が期中及び期末の架空分と主張する濱崎塗装(一八八万円)、共栄建装(三七五万円)の二件につき、これらはいずれも、被告会社の下請業者であった丸五塗装が昭和五〇年九月ころ倒産したのに伴い、丸五塗装の下請職人らから未払賃金等を被告会社が代わって支払うよう要求される等したため、丸五倒産の事後処理費用としてやむなく支出したもので、被告会社の業務上必要な経費であって、単に伝票上右二社に対する支払という形を採ったにすぎず、架空の外注費ではない旨主張する。

関係各証拠によれば、昭和五〇年九月ころ被告会社の下請業者であった丸五塗装が倒産し、その処理に関わった被告人は、昭和五一年三月一〇日ころ濱崎塗装の濱崎績に対し、第一六、第一八マンション関係工事の名目で金額合計一八八万円の見積書・請求書・領収書の作成を依頼し、濱崎塗装では右工事を施工したことはなく、従って右作成書類は架空のものであったが翌一二日に額面一八八万円の小切手が振り出され、被告人は濱崎に倒産した丸五のために使用するとの説明をして同人の裏判を取ったものの小切手は同人に交付せぬまま決済し、右金額につき外注費支払として被告会社の公表に計上したこと、他方被告人は共栄建装専務日高文雄に対し、同年五月一〇日ころ東保育所関係工事の名目で金額三七五万円の架空の請求書・領収書の作成を依頼し、同年六月中旬法人税申告の際被告人が大石にこれを工事未払金として追加計上するよう指示し、右架空取引による外注費未払費用として公表に計上したことが認められ、右認定事実によれば右二件はいずれも架空計上であることが明らかである。

しかして第四一回公判調書中の被告人の供述部分中には、右各金員はいずれも丸五の下請職人の代表者に支払ったとの部分が存在するが、丸五塗装の下請職人らに対する賃金等の支払債務はあくまで丸五塗装の債務であるから、右下請職人への賃金支払を被告会社において保証していたとか、右下請職人が被告会社の工事現場で稼働していてかつ被告会社との間に直接雇用関係が成立していたと同視しうるような特別の事情がない限り、被告会社にはその支払義務はなく、右特別事情を認めるに足る証拠のない本件においては、右二件の支払分を被告会社の外注費として計上することはその名目の如何を問わず許されない。

従って、検察官がこれらを架空外注費として否認し、そのうち期中に支出された一八八万円について、被告会社の被告人に対する役員貸付金として経理処理したことは正当であるから、弁護人の主張は採用しない。

(二) 弁護人は、検察官が架空外注費と主張する吉村工業所(五〇〇万円)、渡辺左官(五四万三四六三円)山富工務店(三八一万七二〇〇円)の分について、いずれも昭和五一年四月期末までに口頭で発注済であり債務として確定していた旨主張する。

しかし、前記三の1の(一)記載のとおり、単に下請先に工事の発注をしただけではその外注費債務として確定していたとは認められないところ、関係各証拠によると、吉村工業所、渡辺左官、山富工務店のいずれもが毎月二〇日に前月二一日から当月二〇日までの工事完了分を取りまとめて被告会社にその代金を請求していたところ、吉村工業所の昭和五一年四月二〇日〆切分の請求額は三五〇万円でそのうち一部につき弁済等がなされたため、同月末日の残額は一五〇万円となったこと、その間も工事は進行していたが完成したものがなかったため五月二〇日分合計額も右残額一五〇万円と変動がなかったこと、渡辺左官、山富工務店両者の四月二〇日〆切分の代金はいずれも同月二八日に全額清算され、五月二〇日〆切分の請求額は渡辺左官二九五万二五〇〇円、山富工務店九八万円であったことをそれぞれ認めることができるから、被告会社における昭和五二年四月期末における外注費の工事未払額は右三者につき右各金額を超えて確定債務として存在していなかったことが明らかである。従って弁護人の主張は採用できない。

(三) 検察官が、重復計上として否認した濱崎塗装(四万九〇〇〇円)分及び集計誤りとして否認あるいは認容した分については、その主張自体からも、これらが計算違い等の過誤によるものと窺われ、「偽りその他不正の行為」による結果であることを肯認するに足りないので、これらも犯則金額から除外することとした。

3 期首及び期末未成工事支出金については後記第三を参照。

一〇  昭和五一年四月期固定資産振替高

1 弁護人は、検察官において被告会社が簿外としていたと主張する茨木市橋の内一丁目三六五ノ三の土地は第一六マンションに係る道路敷部分であり、同市星見町六五-一〇の土地は建ぺい率等の関係から建築不能のためやむなく第一八マンション居住者に自動車置場として無償提供していたもの、同市星見町二七四-五は第一九マンション間の建物建築不能の土地であってやむなく第一七マンション居住者に自転車置場として無償提供していたものであって、いずれも実質上無価値であり、被告会社の所有する固定資産として計上する実体のないものである旨主張するが、右主張に理由のないことは前記四の2記載のとおりである。

2 なお弁護人は、完成建物とされた第一六、第一七マンション及び期末において建設中のため建設仮勘定として処理された第一九ないし第二一マンションにつきいずれも金額(工事原価)が過大である旨主張するが、この点については後記第三参照。

一一  昭和五一年四月期支払利息

1 検察官は、昭和五一年四月期支払利息の項目において、被告会社名義の簿外普通預金口座から被告人が五〇万円を引出して個人的使途に費消したとして、これを被告人に対する役員貸付金として処理すべきである旨主張する。

なるほど右金員については伝票が起票されていないためその使途を特定することができないけれども、これが被告会社の業務上の経費としてではなく検察官主張の如く被告人において個人的使途に費消したと明確に認定し得る証拠はないから、検察官の主張は肯定できない。

2 検察官が被告人に対する役員貸付金(一二八万円)として処理した分については、前記九の2参照。

第二犯意について

一  弁護人は、被告人の逋脱の故意を争い、被告人も捜査及び公判の各段階を通じて一貫して犯意を否認し、脱税を意図してそのための不正な経理操作を大石に指示命令したことは一切なく、仮に被告会社の公表経理に不当な点があるならばそれは単に経理責任者大石の事務上の過誤あるいは当時被告会社の顧問であった林善則税理士と大石との間の事務連絡に際しての不手際等の結果にすぎず、何ら不正な行為に基づくものではなく、また被告人自身は会社経理面に疎く右の間の事情とは無関係である旨供述しており、大石も公判段階において検察官面前での供述を翻し、被告人の関与を否定して被告人の右供述内容に合致する供述をするに至っているので、この点につき検討する。

二  関係各証拠殊に大石葉子及び林善則の検察官に対する各供述調書によれば次の事実を認めることができる。

1 被告会社の顧問税理士林善則は昭和五〇年六月二〇日すぎころ、昭和五〇年四月期の決算及び確定申告に関して報告するため被告会社を訪れ、同社の経理全般を統括していた大石も同席の上で被告人に対し、当期の売上が約一〇億四四〇〇万円、申告見込利益が約四億二〇〇〇万円である旨報告したのに対し、被告人は右申告見込利益が高過ぎるとしてこれを一億二、三〇〇〇万円程度に圧縮することを命じ、そのための方法として、工事進捗率の引下げによる固定資産振替高の縮減、たな卸土地の一部除外、当初計上されていた未成工事支出金の削除を具体的に指示し、林税理士が帰った後、更に大石に指示して架空の工事未払金を計上させるとともに前記指示に基づく明細書を作成させて、これらを林税理士に連絡送付した。

林税理士は、右の被告人の指示に基づいて法人税申告書及び決算財務諸表を作成して被告会社に持参し、これに被告人及び大石が署名押印した。

2 昭和五一年六月、大石は、昭和五一年四月期の確定申告準備のため自ら作成した試算表や主要勘定科目の明細書を林税理士の許へ送付する前に、あらかじめ被告人に見せたところ、同月一五、六日ころに至って、被告人から大石に対し、土地建物売上高のうち期末近くに代金が完済された分につき売上から除外すること、期末たな卸土地建物を過少に計上すること、未成工事支出金を減額すること、建設仮勘定を削除すること及び架空工事未払金を追加計上することと具体的に指示してきたため、大石において関係書類を訂正したうえこれらを林税理士の許に送付し、林税理士は既に被告人の指示により予め不正工作を施されていた右関係書類等をもとに決算財務諸表を作成して同月二四日被告会社を訪ね、被告人に対し、当期の売上が約一一億七〇〇〇万円、申告見込利益が約一億五〇〇〇万円である旨報告した。ところが被告人は更に申告見込利益を七〇〇〇万円程度に半減させることを命じ、そのための方法として、工事進捗率の引下げによる固定資産振替高の減縮及びたな卸土地建物の減額を具体的に指示したためその指示に基づいて林税理士において確定申告書及び決算書類を作成した。

三  右認定事実から明らかなように、被告人は昭和五〇年四月期及び昭和五一年四月期の各確定申告に際し、被告会社の経理担当者大石及び顧問税理士林に対し申告見込利益の圧縮を命じてその具体的な金額の目処まで言及したうえ、そのための不正な経理操作を個別具体的に指示して広範な所得隠蔽工作を行っていたものであり、しかして、判示各期の被告会社の確定申告は被告人の企図した脱税工作の所産と断ぜざるを得ないものであって、被告人が逋脱の意図を有していたことは優に認定しうるところである。

四  ところで、弁護人は各勘定科目ごとに個別的に被告人の犯意を争うけれども、本件におけるように、逋脱に関連する勘定科目・取引内容等が多岐にわたり、しかも正確な帳簿類の備え付けさえ不十分で、被告人自身においても正確な所得を必ずしも把握できないような場合にあっては、被告会社の代表者である被告人において、申告所得と実際所得との差額全部について、その差額がどの勘定科目からどれだけの額が脱ろうされたことによって構成されているのかというようなことまでの認識を必要とするものではなく、各事業年度の収益費用の発生の基礎となる会社の事業活動の存在内容を総体として認識把握し、そのうえで、法人税を免れようとの意図の下に確定申告に際し不正な行為を行って正当な税額よりも過少な税額を申告したとの認識さえあれば、逋脱に係る所得全体につき犯意があったものとして、その責任を問うことができるものというべきである。

してみると、本件においては、被告人が逋脱に係る各勘定科目の基礎となった取引や経理処理の状況について相当具体的な認識を有していたことは、被告人の被告会社における地位及び携っていた業務内容並びにこれらの点に関する被告人の公判廷における供述等から十分推認できるうえ、前記第二の二、三で認定した如く、被告人が確定申告に際し、決算関係書類の内容等を検討のうえ積極的な脱税の意図の下に、申告所得金額を減らすための広範な不正工作を指示する等してこれに深く関与していたのであるから、被告人において逋脱に係る所得金額全体につき故意を有していたと優に認めることができる。

第三工事支出金の各工事現場への配賦方式について

一  被告会社においては確定申告に際し不正な経理操作が行われていたため公表における損益計算書の勘定科目のうち、工事原価を過大に表示するとともにたな卸建物及び固定資産振替高中の完成建物・建設仮勘定等を過少に表示する結果となっており、従って右の勘定科目について公表に依拠することはできず、これらの各勘定科目の正しい金額を把握するためには、まず各事業年度において発生した工事費用(工事支出金)を被告会社が施工した各工事について支出した費用としてそれぞれ振り割りしてこれを確定するとともに、これを収益費用対応の原則に則って、各事業年度において実現した収益に対応するもの(工事原価)とそれ以外の未成工事等に支出されたもの(未成工事支出金、建設仮勘定等)に区分計上して、右勘定科目につき正しく損益計算しなければならない。

しかるに、被告会社においては、各工事現場別の工事支出金を記録した工事台帳等が備え付けられておらず、また各取引先との間の請求書・領収書等を工事現場別に区分整理することさえ行われていなかったため、ここに各事業年度において支出された工事費用がどの工事にいくら支出されたものであるかを的確に配賦することがまず必要となる。

二  当事者の主張

検察官は、その配賦方法につき次のように主張している。

1 被告会社の各期中に支出した工事関係支出金はすべて公表帳簿に計上されており、この金額のうち約七割については、被告会社から押収された支払関係の請求書、領収書等の中に工事現場名の明記されたものが存するのでこれらについてはその記載された工事現場名に従って、その支出された工事を特定することが可能である(以下、支出先の特定された工事支出金の額を「把握済額」「把握済分」という。)から各工事現場別に配賦した。その余の各工事現場との対応を示す資料が得られず、それが支出された工事を特定することができない支出金(以下「未配賦額」「未配賦分」という。)については次の2ないし5のように配賦した。

2 被告会社が昭和四九年四月期から昭和五一年四月期までの各事業年度において施工した全工事を鉄筋マンション新築工事、木造建売文化住宅新築工事及びその他の受注、中古物件改造、雑工事の三つに分類するとともに、更に、各工事現場別に、把握済分の内容と支出時期の明細を調査して、現場別の工事台帳とも言うべきものを作成した。

3(一) 鉄筋マンション工事について、昭和五一年四月末までに完成していたマンションに対しては、被告会社から押収された中村マンションの注文書に記載された工事原価見積り額に基づいて、型枠工事等六つの工事項目につき把握済手間賃との比率や単位面積あたりの工事単価等を求め、これらの数値を基準として未配賦分を配賦し、昭和五一年四月末で未完成であった第一九ないし第二一マンションに対しては、直近に完成した賃貸用マンションである第一マンションについて右の方法による配賦額と把握済額の割合を求め、これを右第一九ないし第二一マンションの把握済額に乗じて配賦額を計算した。

(二) 受注工事については、右中村マンションの注文書の記載から利益率を一割とし(但し昭和五一年四月期の市役所関係受注工事については利益を零とした)、中古物件改造工事については利益を零とし、被告会社の資産となる給油所等の工事原価については把握済額相当額として、それぞれ工事原価を算定した。

(三) そして右のようにして各工事現場別に配賦された工事支出金を各期中の把握済額の割合に応じて各期に割り当てて計算することによって、残りの木造住宅工事へ配賦されるべき各期の未配賦額を算出した。

4(一) 各期における把握済材木仕入高及び被告会社での製材加工等に支出された労務費、現場経費等及びそれに要した建物、機械等の減価償却費を抽出計算して、各期における被告会社の加工済木材費の額を算出し、これに公表計上の材料たな卸高を加えて、各期に支出された木材費の額を確定した。

(二) 右の金額から、鉄筋マンション工事、受注、中古物件改造、その他雑工事において支出した木材費の額を算出してこれを控除し、このようにして求めた各期において木造(建売・文化)住宅工事に支出された木材費の額を把握済の大工手間賃と比較対照したうえ、昭和五一年四月期における木材費の額を建築延面積で除して木造住宅工事における一平方メートルあたりの使用木材費の額を計算し、これを材木に関する一般的な物価統計における指数によって時点修正を施して、昭和五〇年四月期及び昭和四九年四月期に適用して使用材木金額を算出したところ、前記(一)で計算した木材費を上回ったため右差額分については昭和四九年四月期首において簿外たな卸材料が存在したものとして処理した。

5 前記3(三)において算出された木造住宅工事関係の未配賦支出金の中から木材費を除いたその余の支出金については、まず建具器具設備の支出金として配賦し、その残りを把握済額の割合に応じて一括配賦した。

これに対して弁護人はつぎの様に主張する。

すなわち、昭和四九年四月期から昭和五一年四月期までの各事業年度における工事支出金額及び各工事現場ごとに支出先の特定された把握済分の内容、支出時期については一応これを争わないが、未配賦分につき検察官が主張する配賦方法は、まず鉄筋マンション工事、受注工事の配賦基準とされた中村マンションの注文書記載の工事原価見積りの金額そのものが、被告会社の実際の原価構成を正しく反映しておるものでなく、工事原価を過大に表示していること、ついで各工事を通じて木材費については、被告会社が原木を安く仕入れて自社において製材加工する等の特別の事情があるため、一般の業者に比べ廉価に済ましているところ、これを看過していたずらに過大な木材費支出を計上配賦する結果となっていて著しく不合理である。しかして、未配賦分については、以下1、2に述べるような実額拾い出しと称する方法によって算出した金額に依るべきである。

1(一) 鉄筋マンション工事において未配賦分配賦の対象とされた工事項目について、中村マンションの場合を例にとり、まず工事に関し、被告会社で雇傭されている一級建築士の資格を有する社員が中村マンションの設計図書(原図)に基づいて現場に当り、現実に使用されている木材の量を拾い出し、被告人から建設当時の木材単価を聞いてこれを乗じて得た使用材木金額と把握済の大工手間賃との比率を出し、その他の仮設工事、型枠工事、左官工事等についても被告会社で得られた資料に基づいて当時現実に支出した費用金額を確定して、それぞれ単位面積あたりの工事単価や把握済手間賃に対する比率を算定した。

(二) 以上によって、中村マンションの場合を例として得られた配賦基準を他のマンションの原価計算にも適用して各工事原価を算出した。

2 木造住宅工事における使用木材金額については、星見荘園の建売住宅の設計図書(原図)に基づいて同様の方法で使用木材量を拾い出し、これに被告人から聞いた当時の木材単価を乗じて得た使用木材金額と、把握済大工手間賃との比率を算定したうえ、右の比率を他の木造住宅工事にも適用してその工事原価を算出した。

3 そうして右の結果算出された工事原価に基づいて、鉄筋マンション工事及び木造(建売・文化)住宅工事関係について、各期における期首期末未成工事支出金、完成工事原価、固定資産振替高(建設仮勘定)等の損益計算上必要な各勘定科目の具体的金額を算出した。

三  推計配賦の必要性と推計の方法

1 右のように、昭和四九年四月期から昭和五二年四月期までの各事業年度における工事支出総金額及びその各支出時期、その間に各工事現場ごとに支出先が特定できた把握済額については明らかであり、問題は未配賦分の配賦方法であるが、この点につき直接的な証拠が存在しないため間接事実による推認によって配賦せざるを得ないことは己むを得ないところである。(なお、弁護人は実額拾い出しとか実額計算という用語を用いているが、これも直接的な証拠によって実在する工事原価等を認定できると主張するものではなく、弁護人が本件公判において採った計算方法ないし計算結果を言うものにすぎない。)

2 そこでまず弁護人の主張する配賦方法につき検討を加える。

(一) まず弁護人は、使用木材費について、その算出の際に根拠とした材木単価は、一般市価及び被告人本人や現場監督の豊富な実際の経験に基づく意見を参考として割り出したもので、殊に被告人は材木仕入等の実務に通暁していてその意見は相当の根拠を有しており、被告会社の実情によく適合した適正な金額である旨主張している。

しかしながら、弁護人主張の材木単価はいずれも本件起訴後である昭和五五年ころに使用材木の拾い出し計算を行った際、被告人から回答を得た金額に依拠しているものと認められるところ、被告人の指示に係る右材木単価が適正であることの根拠としてはもっぱら被告人個人の経験を強調してその支えとしているにとどまり、これを裏付ける客観的な資料等は一切提出されるに至ってきないことに加え、前記第二で認定した如く、被告人は逋脱の故意の下に不正工作の指示等を行なっていたのに、なお捜査公判段階を通じてその存在を否認して自己の刑責を免れようと虚偽の弁解を重ねていることに照らし、被告人の公判供述の信用性が乏しいと認められること等に鑑みると、右の材木単価の指示金額についても、同様これをたやすく信用することはできない。

また、弁護人の主張する鉄筋マンション工事及び木造住宅工事における各大工手間賃に対する使用材木費の比率を適用して、昭和四九年四月期から昭和五一年四月期までの間に被告会社が施工した各工事ごとに、使用木材費用を算出し(但し、弁護人からの具体的主張のない鉄筋マンションの型枠工事における使用木材金額については検察官と同じ計算方法によることとし、受注、中古物件改造、その他雑工事における使用木材金額についてはいずれも検察官主張額とし、寺川文化ほか木造住宅工事については、検察官主張額に星見荘園及び橋の内荘園につき弁護人の主張する使用木材金額と同じく検察官主張金額との割合を乗じて、使用木材金額を算出したが、弁護人の主張によれば、右の各工事における現実の使用木材金額が右の方法により算出した各金額を上回ることはあり得ないはずである。)、その合計額を計算すると一億三四六七万三六四九円となる(別紙7参照)。

他方、検察官が主張する各期における加工済木材費の額の算出過程(前記二、4(一))は関係各証拠によってこれを肯認することができるところ、これに各期の公表計上の材料たな卸高を加えて、前記各事業年度中に支出された使用木材金額の総額を計算すると、一億九二六〇万一四九三円となることが認められ、これを前記合計額と対比してみると、弁護人の主張によって計算した総木材費は、本来支出されなければならない木材費を五七九二万七八四四円も下回る極めて過少なものとなっているばかりか、右は把握済材木仕入高と公表計上の材料たな卸高を単純合計した金額をも更に約四〇〇万円近く下回っている有様であって、弁護人が実額拾い出しに基づいて算出したと主張する木材費の額は著しく過少であるといわざるを得ずその不合理性は明らかである。

(二) 弁護人が実額拾い出しに基づいて工事原価を算出したと主張する鉄筋マンション工事及び木造(建売・文化)住宅工事関係の昭和四九年四月期から昭和五二年四月期における各期中の工事支出金額を検察官主張の右金額と比較するとその差は、昭和四九年四月期マイナス七六六七万三四六九円(検察官が簿外たな卸材料とした分を除く。)、昭和五〇年四月期マイナス四八二六万八四四二円(前同)、昭和五一年四月期プラス一三二一万三六五円増となるところ、弁護人は、本件において損益計算立証方式が採用されている関係から工事原価勘定(各期中の工事支出金総額)のうち、損益計算上必要な争点科目である借方の期首未成工事支出金、期首材料たな卸高、貸方の期末未成工事支出金、固定資産振替高(建設仮勘定)、期末たな卸建物についてのみ、各金額を実額により計算しさえすれば、その結果工事原価勘定の貸借差額(借方残)はその期中に着工完成した工事の原価に当然振替えられ、これによってその期の完成工事原価(売上原価)が正しく算出されることになると主張しているから、右昭和四九年四月期及び昭和五〇年四月期における工事支出金の差額分は、各期中に完成したその余の工事即ち受注、中古物件改造、その他残工事のうち弁護人が検察官主張の期中工事支出金額を争わないとしている被告会社の資産となる星見町給油所、建設本部等を除いた工事の原価ということになるが、右の受注、中古物件改造、その他雑工事に係る請負収入金額等を合計してもせいぜい昭和四九年四月期一億〇七五五万一二六二円、昭和五〇年四月期三六四七万五七九四円程度であるから、検察官においてすでに受注工事につき利益率一割、中古物件改造工事につき利益零として工事支出金を配賦済であることを考えると、このうえ更に弁護人主張の差額分が原価を構成するとすれば、受注工事等に関して工事原価が請負金額を極端に上回ることになり、極めて不合理な結果を招来するといわざるを得ない。

(三) 従って弁護人が主張する配賦方式は、著しく不合理と認められるから当裁判所においては到底採用し難い。

3 次に検察官の主張する配賦方法につき検討を加える。

(一)(1) 検察官は被告会社から押収した中村マンションの注文書の記載を基準として配賦を行っているのであるが、この点につき弁護人は、この注文書は、注文主の予算の都合によってまず受注金額の総額が決まり、その後見積りを急がされたこともあって、被告会社における現実の原価額から個別に積算したものではなく、各工事項目ごとに適当な数額を割り振ったいわば語呂合せ的なものにすぎず、従ってそれには格別の根拠はなく勿論被告会社の現実の原価構成にもそぐわない過大な結果となっておるから、右注文書の記載を基準とした検察官主張の配賦方法は合理性がなく実際に合わない旨主張しているのでこの点につき検討する。

(2) まず中村マンションの見積りの注文書につき検討するに、関係各証拠によると次の事実を認めることができる。

(イ) 中村マンションの注文主である中村英雄は以前から被告会社と取引があり、被告人とも交際のあった大工であり、職業柄、鉄筋マンションの建築単価の一般的な相場について相応の知識を有していたものと推認し得るところ、請負契約までの経過をみるに、昭和四八年七月初めころ、当時被告会社に勤務していた一級建築士安藤重信が二〇〇分の一の図面を作成(プランニング)して中村に呈示したところ、同人が大変乗り気になったので更により詳細な一〇〇分の一の図面を作成したうえ、具体的な間取り等についても細かく検討する等の打ち合わせを行った後、同人から早急に見積を作るよう要求されたため、これに応じ概算見積総額八三八二万円を呈示し、値引に応じた結果八一〇〇万円で正式に受注するに至った。

(ロ) 右概算見積は短時間で行われたが当時の建築原価の相場(坪あたり二五、六万円)を念頭に置いたうえ、一般的な建築積算資料を参考にし、また被告会社が請負った市の発注工事に関する内訳明細書の項目やその金額比等の記載を考慮して各工事項目の全体の金額に対する金額を定めるとともに単価についても判明するものについてはこれをも記載したものである。

右認定のとおり、中村マンションの見積はその総額において被告会社が当初予定した受注工事金額とそれ程差がないばかりでなく、各工事項目の割り振りについても被告会社で通常行われるのとほぼ同様の方法が採用されているものと認められ、従って中村マンションの見積は単なる語呂合せというようなものではなく当時の業界の一般性を備えた合理的根拠に基づき、かなり正確に見積られていたものと認められる。

(3) しかして、各鉄筋マンションのうち、中村マンションの注文書の記載を直接の基準として配賦が行われた第一〇ないし第一八マンション、松下マンションの合計一〇棟のマンションは、その階層から五階建、戸数も二〇戸から四四戸であるのに比べ、中村マンションは三階段二一戸と比較的小規模の部類に属するけれども、建築単価を決定する際の重要な要素である一戸あたりの面積でみると、他の各マンションは二八・一一平方メートルから七八・四平方メートルであるのに対し、中村マンションのそれは五四・二五六平方メートルとちょうどその中間的な面積を有しており、殊に第一〇、第一八マンション、松下マンションにおけるそれと近い数字であって、その意味ではいわば平均的規模のマンションであるうえ、中村マンションは、昭和四八年七月に見積が為されて翌八月三日正式に受注し、これに基づいて同年一〇月に着工されて昭和四九年五月に完成したものであって、本件起訴の対象となった各事業年度に比較的近い時期に建設されており、しかもいわゆる石油ショックによる物価・人件費の高騰が始まる以前の時期に見積及び契約の締結が為され、これに基づいて工事が行われていることからすると、着工完成時期がこれより遅れる第一四ないし第一八マンションに比して工事原価が低くて済んだであろうと窺われることなどを総合考慮すれば、中村マンションの注文書記載の見積を基礎として配賦することは十分の合理性を具しているものと認められる。

(二) 次いで木造(建売・文化)住宅工事における使用木材費について検討するに、木工事における大工手間賃と使用木材金額の割合については、鉄筋マンション工事におけるよりも木造住宅工事における方が、工事の性質上、使用木材金額の割合が一般的により大きくなるものと考えられるところ、木造住宅工事に関して検察官の主張(前記二4(一)(二))に従って算出した各期における使用木材金額を把握済大工手間で除した割合は、昭和四九年四月期一・八六倍、昭和五〇年四月期一・六九倍、昭和五一年四月期二・九一倍となり昭和四九年四月期及び昭和五〇年四月期における右の比率は、鉄筋マンション工事の基準として合理的と認められる中村マンションの注文書の見積による木工事における同様割合(一・九一倍)をも下回っていて不自然というほかなく、従って大工手間が把握済額を基礎としていることを考慮すると簿外にたな卸木材が存在したものと推認することができる。しかして昭和五一年四月期における使用木材金額と把握済大工手間との割合を基礎に昭和四九年四月期及び昭和五〇年四月期における木造住宅工事に係る使用木材金額を算出するために検察官が用いた計算方法(前記二4(三))は、合理的であるものと認められる。

(なお、右各期における把握済大工手間と検察官主張の方法によって算出した使用木材金額との比率は四倍を超えるけれども、これは当時の木材価格<昭和五〇年の木材・木製品の卸売物価指数が前年を下回っているのは公知である。>に比し人件費が高騰していた状況に鑑みれば必ずしも不合理な結果ではない。)

4 以上説示してきたとおり、本件においては一部簿外とされていた木材を除いて工事支出金額が明確となっており、そのうちの約七割については被告会社から押収された関係証拠により各工事現場ごとに特定可能であったところからこれらについては直接的な証拠により認定配賦したうえ、未配賦分についてのみ推計配賦を行ったのであるが、その配賦方法は、その内容において合理的であると認められる被告会社から押収にかかる中村マンションの注文書添付の見積を基準として各種統計等を利用して行なわれた合理的な配賦方法であると考えられる。

第四減価償却について

弁護人は、検察官において、各期に被告会社が簿外としていたとされる第一〇ないし第一七マンション外の建物及び機械装置並びに昭和五〇年四月期首に被告会社がたな卸土地建物として公表計上していた茨木市大池町七番一一号所在大池三和文化住宅等五戸の建物につき現実の利用状況に基づいてこれらを固定資産として把握計上しているけれども、仮にこれら固定資産の存在が認められ益金に計上されるのであれば、正しい期間損益計算の観点からして当然これら減価償却資産に係る償却費も損金として認容されるべきである旨主張する。

しかしながら、法人税法上、減価償却費については、当然に損金算入が認められているわけではなく、法人が各事業年度において償却費として損金経理することが要件とされており(法人税法三一条一項)、右規定は、減価償却がいわゆる内部取引に属するものであることから減価償却を行うか否かを当該法人の自主的判断に委ね、確定決算においてその選択がなされない以上その損金算入を認めないということを明定したものと解せられる。このように課税手続上法人の所得計算にあたって右の要件を具備しない限り償却費の損金算入が認められないとされている以上、法人税逋脱税額の範囲を認定するに際してのみこれと異なり償却費の損金算入につき法定の要件の具備を不要とする合理的理由はなく、結局租税刑事事件における所得計算においても、損金経理を経ない限りその損金算入を認めないというのが法の趣旨であると解される。

しかして、本件において弁護人主張の前記固定資産につき償却費としての損金経理も申告調整(法人税法基本通達七-五-二)も行われていない以上、その減価償却費を損金に計上することは認められない。弁護人の主張は採用しない。

第五いわゆる土地重課に係る土地譲渡税額の算定について

判示各事業年度において被告会社が売却した土地の譲渡利益はいわゆる土地重課税の対象となるものであるが、被告会社の公表において行った土地重課の計算は、建物を新築して土地と一括して売却した場合について建物の取得価額を過大に計上したり、売上計上時期を遅らせて課税対象から除外したりしている等の不適切な点が認められたので、これらを是正したうえ大略以下のような方法で課税土地譲渡利益金額及びこれに対する土地譲渡税額を算出した。

1  まず、新築物件にかかる土地譲渡の場合、土地については購入価格に支出した造成費用を加算し、建物については前記第三において説示した如く合理的と認められた検察官主張の配賦方法に従って把握された建築費用に基づいてそれぞれ取得原価を確定し、中古物件売買にかかる土地譲渡の場合、公表計上の土地建物の各取得原価に建物の改造費用を加算してこれを確定した。

2  次いで、土地建物を一括譲渡した売上金額総額のうち、土地の譲渡の対面の額を算出するについては、売上金額総額を前記のとおり確定した土地及び建物の各譲渡原価の割合に応じて按分する方法に依ってこれを計算した。

(なお、右の対価区分方法は、被告会社自身が公表において、概ね継続的に採用していたものであるうえ、国税当局の取扱を示す通達((昭和四九年直法二-四九))においても、一定の場合に右方法による計算を是認する旨定められていることに照らすと、右対価区分方法自体相当の合理性を有していると認められ、本件において右通達の定める要件を必ずしも充足しない場合が含まれているとはいえ、そのために右方法の適用を直ちに排除しなければならないとする理由は見出し難い。)

3  以上に基づいて、土地の譲渡対価の額から譲渡原価及び法定経費を控除して課税土地譲渡利益金額を算出し、これに対する土地譲渡税額を計算した結果は、別紙5、6の土地譲渡税額計算書のとおりである。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、行為においては刑法六〇条、昭和五六年法律第五四号(脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律)による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては刑法六〇条、右改正後の法人税法二五九条一項に各該当するが、犯罪後の法律により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条によりいずれも軽い行為時法の刑によることとして所定刑中懲役刑を各選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予することとし、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関して為されたものであるから、同被告会社については、前記昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法二六四条一項により、判示各罪につき同じく改正前の法人税法二五九条一項の罰金刑に各処せられるべきところ、免れた法人税額がいずれも五〇〇万円を超えるので情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により合算した金額の範囲内で同被告会社を罰金六、〇〇〇万円に処することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文、二八二条により被告人及び同被告会社に連帯して負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、判示の如く多様かつ巧妙な手口を用いて、合計で約二億円にものぼる多額の法人税を逋脱したという悪質な脱税事犯であるところ、被告人は本件脱税に際して経理責任者大石に広範な不正工作を具体的に指示する等して積極的かつ全面的にこれに関与して犯行を敢行した中心人物であり、本件の責は挙げて被告人に帰せられるべきものと言っても過言ではないにもかかわらず、被告人は捜査公判段階を通じ一貫して犯意及び不正工作指示を否認し、自己の刑責を免れるため虚偽の弁解に終始してきて何ら反省の情が認められないうえ、昭和四二年にも本件と同じ法人税法違反事件につき有罪判決を受けてその刑責を追求されるとともに厳しく反省を促された経験を有しながらその効なく、またもや本件起訴にかかる以前の事業年度から脱税工作に手を染めていたことすら窺われる有様であって、その租税法秩序軽視の態度は顕著であると言うべく、その犯情は極めて悪質である。また、租税逋脱犯の処罰理由は単に国家の租税債権を害するという点のみに存するのではなく、納税者間の衡平公正な租税負担を害し、現行租税法秩序の根幹をなす申告納税制度の下で誠実な一般納税者の納税意欲、納税倫理を損う結果をもたらしかねない反社会性を帯びているという点にこそ、大きな非難を蒙るべきよすがが存するのであって、このような観点から本件における前記の諸事情に基づいて被告人らの刑責を勘案すれば、まさしくその刑責はまことに重大であって厳罰を求める検察官の意見にも傾聴すべきものがあり、殊に被告人に対しては実刑をもって臨むことも充分考えられるところではあるけれども、他方、被告会社はそもそも被告人の個人企業として出発し爾後発展を遂げてきたものであって、多数の従業員、下請業者を抱えるに至った現在においても被告会社の業務全般にわたって被告人個人の力量、才覚に負う所が多く、同被告人を欠くことにでもなればその影響は非常に大きいと推察されるうえ、被告会社において本件起訴にかかる事業年度につき更正処分を受けて差額の法人税を納付済であり、重加算税等についてもこれを納付しうる状態にあることや新たな顧問税理士の指導のもとに会社の経理についても改善を図っていること等の事情に鑑みれば、被告人に対しては今回に限り刑の執行を猶予して本件につき強く諫めるとともに反省、自戒を促すにとどめるとともに、被告会社に対して主文掲記の罰金を科するのを相当と思料した次第である。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田良兼 裁判官 吉田浩 裁判官豊澤佳弘は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 池田良兼)

別紙1

修正損益計算書

自 昭和49年5月1日

至 昭和50年4月30日

〈省略〉

修正損益計算書

(工事原価)

〈省略〉

別紙2

修正損益計算書

自 昭和50年5月1日

至 昭和51年4月30日

〈省略〉

修正損益計算書

(工事原価)

〈省略〉

別紙3

税額計算書

自 昭和49年5月1日 至 昭和50年4月30日

〈省略〉

別紙4

税額計算書

自 昭和50年5月1日 至 昭和51年4月30日

〈省略〉

別紙5

土地の譲渡等に係る譲渡利益金額に対する税額等の計算

自 昭和49年5月1日

至 昭和50年4月30日

〈省略〉

別紙5つづき

〈省略〉

(注) 経費の額は、譲渡した土地の帳簿価額の累計額に法定の負債利子(6%)、法定の販売費及び一般管理費(4%)をそれぞれ乗じて得た金額の合計額である。

別紙6

土地の譲渡等に係る譲渡利益金額に対する税額等の計算

自 昭和50年5月1日

至 昭和51年4月30日

〈省略〉

別紙6つづき

〈省略〉

(注) 経費の額は、譲渡した土地の帳簿価額の累計額に法定の負債利子(6%)、法定の販売費及び一般管理費(4%)をそれぞれ乗じて得た金額の合計額である。

別紙7

〈省略〉

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